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神経を取らずに残す治療『MTAセメントを使った直接覆髄』についてお話します。歯科の総合的な情報や医院情報を詳しく知りたい方はトップページへお越しください。このブログでは2023年最新の神経を取らない治療についてご紹介します。
「神経取りたくない」
「神経取らない治療」
ある患者さまがインターネットで検索した言葉です。
元々、歯科助手の経験をされたことがあり、歯科について関心のある方でした。
私たちは歯科医師という専門職ですので、
なにより『結果』が大切です。
なんとか神経を取らずに残しましょう。
これから2023年現在の世界的な潮流を踏まえて、『神経を取らない』『神経を残したい』という患者さんの気持ちに真剣に向き合う歯科医の臨床について深くお話します。
これは歯の神経を取らなくて大丈夫。これは神経を取らないといけない。
世界中の先人たちの経験の中で、だんだん答えがまとまってきました。
そんな話もしていきます。
患者さんは30代女性。
昨年秋(半年前)に近くの歯科医院を受診しました。
「虫歯を取りましょう。抜髄という歯の神経を取る処置もしないといけない」
担当の先生にそのように言われて、不安になって通院が途絶えてしまいました。
確かに、深いところに虫歯があります。
絵で描くと⬇︎このような感じです。
診断としては、C2~C3になります。
つまり、大きな虫歯であり、歯髄(神経がある部分)まで達している可能性が高い。
ということです。
基本的にはC3となれば、神経を取る必要があります。
正直なところ、
日本の歯科医師の過半数は、歯髄(神経)が露出するほどに大きい虫歯の場合は神経を取る選択をします。
なぜならば、歯髄(ピンク色)が露出して細菌に触れると、歯髄炎という炎症を起こす可能性が高いためです。
歯科医院受診後に、それ以上に痛くなったとあればトラブル必至なので、そうなる前に「歯髄(神経)をとってしまおう」というのがこれまでのスタンダードでした。
少し待ってください。
落ち着いて考えてみましょう。歯髄(神経)はとても大切な組織です。
もちろん簡単に取らない方が良いに決まっています。
下の2枚の写真は「枯れ木」と「みずみずしい木」です。
力をかけると「パキッ」と折れやすいのは枯れ木ですよね。
歯も同じです。
歯髄には血液の循環もあるので、歯髄を取ると血液の供給は終了します。
つまり、枯れ木のように歯が折れやすくなります。
折れてしまうと、
「抜歯」という選択肢になります。
抜歯をすると、その欠損した部分を補う入れ歯やインプラントが必要になります。
それは何としても避けたいですよね。
「虫歯の感染は取りたいけど、一緒に神経も取らないと。」
「歯が割れやすくなるんだけど仕方ないね。つまり歯の寿命が短くなるということ。」
そんなジレンマを抱えた歯科医療ですが、MTAセメントの開発で転機を迎えます。
歯髄(神経)を取らずに、深い虫歯を除去することができる時代になってきました。
さて、実際の症例に戻ります。
○虫歯の染め出し
以前の歯医者さんでつけた仮封材が残ったままでした。
黒ければ虫歯!!という訳ではありません。
虫歯の染め出しをして、虫歯菌に犯されたピンク色の部分だけをマイクロスコープで丁寧に削除します。
○ラバーダム装着
虫歯の除去、歯髄(神経)の露出
マイクロスコープを使いながら丁寧に虫歯をとっていきますが、事前の診断通りに歯髄(神経)が露出してきました。
唾液に混じった細菌は歯髄へ侵入する可能性があります。
細菌への配慮は歯髄(神経)を温存するにとって大切なことです。
ラバーダム(写真の紫色のシート)を使用して、唾液の侵入を未然に防ぎます。
薬液での洗浄もしっかりと行い、神経が入っている歯髄へと細菌の侵入を防ぎます。
○MTA セメント貼薬
マイクロスコープで細部まで歯髄の状態を観察しながら、露出した歯髄をMTAセメントで覆います。
歯髄の色が綺麗なピンク色をしていれば高い可能性で神経を取らずに残すことができます。
これが暗い色をしていれば歯髄(神経)が既に壊死している可能性があります。
現在のところ、当院での施術では全ての治療で神経を取らずに温存することが出来ております。
もちろん医療なので、100%神経を残せるというわけではありません。
○裏装
プラスチックの材料で形を整えます。
○形成
今回は一つ前の歯も同時に施術しております。歯にピタッとあった「適合性」がとても重要です。
ズレた詰め物だと、お金をかけても結局細菌が溜まりやすくなって虫歯がそこからスタートします。
眼で見えるズレは細菌にとっては住み良い環境です。
○セラミックインレーの装着
出来上がったセラミックを装着します。
「セラミックだから良い」「自費だから虫歯にならない」
間違ってはいませんが、少し違います。
熟達した歯科技工士が丁寧に作ったセラミックだから綺麗に仕上がり、精密だから虫歯になりにくいのです。もちろん院長と歯科衛生士によるメインテナンスプログラムも非常に大切です。
出会う歯科医師の技量によって、患者さんの将来は良くも悪くも変化します。
これまでに記載したマイクロスコープを使用した神経を取らない治療は自由診療となります。神経を温存するために最大限の注意を払い、丁寧な診療を心がけております。
10年後、20年後に患者さんが「あの時、一歩踏み出してみて良かった」と思ってくださるように、手間を惜しまず、診療に妥協をせず、最高の仕上がりを提供する姿勢を常に持っております。
そんな医院の方針を支持してくださる方がいてくださると、嬉しく思います。
いかがでしょうか。以上が神経を取らない治療の流れになります。
このように、歯髄が露出しても神経を残すことが出来る治療があります。
正しい判断と細菌のケアが出来れば90%以上の可能性で歯髄(神経)を温存できます。
海外での権威のある根管治療雑誌においてもMTAセメントを使用した神経を取らない治療の成功率について記載されている論文がございます。ご興味のある方はご覧ください。
Outcome of Direct Pulp Capping with Mineral Trioxide Aggregate: A Prospective Study
MTAセメントを使用した神経を取らない治療(直接覆髄、生活歯髄温存療法)は非常に高い成功率ではありますが、もちろん100%ではありません。
だからこそ、そもそも予防が大切です。
虫歯になって、神経を取らない治療というのは医療の目指すべきあり方ではありません。予防を大切にしましょう。
まず予防!!
どうしても虫歯が大きくなってしまったとき、
それでもなんとか神経を取らずに残したいとき
そんな時はご相談ください。
大切なお体のことです。
クリニック選びは精度にこだわってみませんか?
直接覆髄が困難な方:何もしてなくてもズンズンと痛む方。夜も眠れないほど痛みがある方
このような場合は根管治療が必要となります。
1993年にアメリカのロマリンダ大学で開発されたセメント。優れた薬理効果があり、多くの先進国で利用されている。
根管治療の専門医の中では近年で最も優れた開発として高く評価するドクターも多く存在し、直接覆髄や根管治療といった分野においてはなくてはならない材料として広く認識されている。
1.硬化時にわずかに膨張するために非常に高い封鎖性を有する。細菌の侵入を回避できるので神経を取らずに温存できる可能性が高い。
2.高アルカリ性であるので抗菌作用がある。
3.カルシウム除放性(少しずつカルシウムが周りに広がる作用)を有しているので、感染によって失われた歯周組織の再生を促す作用がある。
4.生態親和性が良好なので、歯髄(神経)対して為害作用はほぼ無い。
歯髄(神経)が感染していない状態で、むし歯を削る際に歯髄に穴が空いた場合に歯髄をMTAセメントや水酸化カルシウムによって被覆する方法。歯の神経を取らずに保存することが可能になる。
メリット:抜髄(神経を取ること)を避けることが出来るので、歯根破折のリスクを軽減できる。
デメリット:治療の後に感染が生じると抜髄が必要になる。
施術後に知覚過敏症状が出る場合もある。
歯髄(神経)が一部感染している状態で、むし歯治療の際に歯髄に穴が空いた場合に行う方法。感染した歯髄と生きている歯髄の界面で切断を行い、歯髄の一部を温存する方法。
メリット:抜髄を避けることが出来るので、歯根破折のリスクを回避できる。
デメリット:壊死歯髄と生活歯髄の見極めが困難。治療後に感染が生じれば抜髄が必要になる。
施術後に知覚過敏が生じる場合がある。