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プレール麻布仙台坂 1階
歯が痛いのにはいくつかの原因があります。
歯が痛いとみなさんはどのような状態を想像しますか?
「虫歯かなあ‥。」と思っているのではないでしょうか。
そうですね、多くの方が『虫歯に違いない』という感覚を持ってしまいます。
その痛んでいる歯は、本当に虫歯なのでしょうか。
もちろん虫歯の時も痛くなりますが、実は歯が痛いのは虫歯に限らず、他にも原因が考えられるのです。
「歯が痛いから近くの歯医者に行ったのだけど、虫歯ではないと言われて信用できないからこちらに来院しました。」
このブログは患者様のこのような些細な一言がきっかけで書いてみようと思いました。
歯が痛いと患者様はなぜか虫歯だと決めつけてしまう傾向があるようです。
患者様の「歯の痛みに対する先入観」が払拭できないと痛みと不安は取れません。歯科医師も歯が痛いのは何が原因であり、どのような対応が必要であるのかを明確に患者様に説明する必要があります。
結論として、歯が痛いと感じるには6つの原因があります。あなたの歯が痛い原因もこの中に当てはまるのではないでしょうか。それぞれの違いと見極め方を後ほどお話しましょう。
さて、歯が痛いと感じる6つの原因を紹介する前にまずは歯の構造とどの部分で痛みをキャッチしているのかをゆっくりと理解してみましょう。
歯は単調な白い塊というわけではありません。体の成長とともに歯もそれぞれの役割を果たすために分化していきます。
一番外側の白く見えている部分はエナメル質といいます。咀嚼の力に耐えるために硬くて緻密な構造をしています。99%は無機質で出来ており、生きた細胞はいないので虫歯になると残念ながら再生されません。
一度失うと元には戻れないので、予防がとても大切になります。実はこの部分が虫歯になっていても、多くの場合は歯が痛むということは起きません。
エナメル質より深部には象牙質があります。象牙質は70%が無機質、30%はコラーゲンで出来ている組織です。
象牙質には象牙細管という1~2μmの無数の細い管が多く存在します。これは歯髄からエナメル質にかけて放射状に存在しており、象牙質の形成と維持を担っています。
この象牙細管が今回の「歯が痛い」へのキーワードになります。
象牙細管は象牙質の外部の刺激を内部(歯髄)へと伝える特徴があります。
下図の赤いラインにはAδ繊維というズキッと鋭く歯が痛む感覚を司る神経が沢山存在します。
象牙細管を通して冷たいものや歯ブラシの摩擦、そして齲窩(虫歯の穴)への刺激などが歯髄表層のAδ繊維へと伝わることで人は歯が痛いと感じてます。
歯髄には神経や血管が配置されています。歯の内部にも実は血が通っているのです。これにより歯の水分量が保たれているので、象牙質の柔軟性や硬さが維持できています。
また、知覚を司る神経にもいくつかの種類があり、ズキッと鋭く歯が痛む神経(Aδ繊維)やズーンと重く痛む神経(C繊維)、圧力を感じる神経などがあり、歯髄にはズキッと鋭く歯が痛くなる神経とズーンと重く歯が痛くなる神経が存在します。
◆歯根膜
歯と骨は直接結合しているのではなく、歯根膜という血管や神経が通るクッションのような0.3mmほどの組織によって繋がっています。
この歯根膜の働きにより、歯はわずかに浮き沈みをすることが可能になり、衝撃を骨に直接伝えることなく、多くの歯で噛むことが出来る様になるのです。
外傷を受けた際や噛み合わせの不調和があると、歯根膜に損傷が起こり、歯が痛いと感じます。正確に表現すると、歯の周りの歯周組織(歯根膜)が痛いということになります。
歯や歯の周りの構造はこのようなものとなります。
それでは、実際に歯が痛むのはどんな時なのか深掘りしてみましょう。
歯が痛い6つの原因
歯が痛い6つの原因
深い虫歯があると、エナメル質が崩壊するので細菌や食べかすが容易に歯の内部に侵入します。そうすると、咬合の度に象牙細管を通して歯髄へと刺激が伝わり、歯が痛いと感じます。
ここでのポイントはエナメル質が崩壊してしまった深い虫歯という点です。
実はエナメル質に限局されるような小さな虫歯の場合は、ほとんどの場合が歯が痛いと感じることはありません。
実際に例を挙げてみましょう。
・浅い虫歯
エナメル質に限局される虫歯は、とても繊細な方でない限りは多くの場合が痛みを伴いません。もちろん浅い虫歯でも視認することは可能です。小さな虫歯も見落とさない診断力は言うまでもなく必要となります。象牙細管は刺激を歯髄へと伝えてしまう傾向がありますが、浅い虫歯の場合は刺激が伝わることはさほど起こりません。
・深い虫歯
エナメル質が崩壊するような深い虫歯では、噛むたびに歯髄へと刺激が伝わってズキッと歯が痛いと感じます。
象牙質に到達する虫歯はレントゲンにもしっかりと写ることが多いので、虫歯の鑑別にはレントゲン撮影が有効です。
痛みを伴う深在性の虫歯の場合はすぐに治療が必要です。
深在性の虫歯を放置すると歯髄炎になることがあります。歯髄炎は人が病気で痛みを感じる中でも上位にくる辛い痛みです。歯髄炎になると何時間も持続して歯が痛いと自覚するようになり、夜も痛くて眠ることが出来ないようになることもあります。
歯がズキッと痛むようになったら歯髄炎になる日も近いかもしれません。歯科医院への受診は必須です。
虫歯でどうしようもなく痛い時、そんな時の対処法をご紹介します。
深部に到達する虫歯の痛みは数日間続きます。まずは我慢せずに歯科医院に電話して現状を伝えましょう。
夜間で歯科医院が空いていない場合、東京にお住まいの方は「ひまわり 医療機関」と検索してみましょう。夜間でも空いている医療施設を探すことができます。これは意外と知られていない情報です。もしもの時のために覚えておいて損はないかと思います。
他の地域の方も夜間対応がある歯科医院は探せばあるかもしれませんので検索してみましょう。薬の処方や応急対応を専門家にお願いするのが一番です。
すぐに歯科医院に行けない場合は自分でも対処が必要です。虫歯が深部まで到達した場合は何もしていなくても持続的に痛くなります。心臓の拍動と同じようにドクドクと痛む場合は氷などを口に含み、冷やしてあげるのが良いです。もちろん解熱鎮痛薬を飲むこともお勧めします。
歯が痛い6つの原因
細菌が歯の内部で増殖して深部へと侵入し、根っこの先で炎症反応を起こしていることを根尖性歯周炎といいます。
深在性の虫歯を放置した場合や一度歯の根っこの治療をした歯においてよく起こります。
慢性時には、噛むときに鈍く歯が痛いと感じたり、違和感を感じることが多く、急性症状が起きると歯茎が大きく腫れてしまい、歯が痛くて噛むことも出来ないようになることもあります。これは細かい意味で言うと、歯が痛いのではなく、歯の周りの組織が痛むという表現が正確です。
この根尖性歯周炎を放置すると、さらに炎症は深部へと波及することがあります。
骨に波及すると骨髄炎という病気になりますし、上顎洞へと波及すると上顎洞炎を引き起こします。蜂窩織炎や敗血症なども関連として考えられ、命を脅かす病気へと発展する可能性もあります。やはり早期の治療が必要です。
歯が痛い6つの原因
人の噛み合わせというものは非常に曖昧で、長い時間の中で歯がすり減ったり、歯が移動したりします。
経年的な変化の中で身体は順応していき、痛みを伴うことなく毎日咀嚼をすることができます。このように理想的な噛み合わせではなくても日常を送ることができる咬合のことを生理的咬合といいます。
しかしながら、過度に負荷がかかる歯には痛みが伴う場合や歯がズキッと痛む場合があります。これを咬合の不調和(咬合性外傷)といい、改善が必要になります。噛み合わせの不調和があると、顎関節症が生じることや頭痛がするようになる方もいます。
お口を大きく開けて、ゆっくりと閉じてみてください。あなたの傷んでいる歯が最初にゴツンと当たってきませんか?このようにどこかの歯が最初にゴツンと当たる歯のことを早期接触といい、このような歯では歯髄へと過度な刺激が伝わってしまうのでズキッと歯が痛いという症状がでてしまいます。
また、セラミックやジルコニアで虫歯治療をした後に歯が痛いと感じる方もいます。これには複合的な事象が重なっている場合が考えられます。
セラミックにした歯が痛い理由
・治療の刺激で過敏となり、一時的に歯が痛い
・接着が不十分で隙間が空いているので歯が痛い
・噛み合わせが合っていなくて歯が痛い
深い虫歯の治療をしているのであれば、治療の切削器具の刺激が原因で歯髄が過敏になって、一時的に歯が痛いと感じている可能性もあります。この場合は数日間様子を見ていると歯が痛い症状が落ち着く場合があります。ただし、深い虫歯の治療をした歯では数ヶ月間歯が痛いと感じる患者様もいるようです。
装着したセラミックがしっかりと接着出来ていない場合には隙間から刺激が伝わることで歯が痛いと感じます。セラミックのセメントは非常に繊細であるので呼気に含まれる湿気でも接着力が著しく低下する特徴があります。歯科医師の技術が非常に大切になる工程です。この場合は残念ながらセラミックを作り替えをしないと仕方ありません。
また、セットしたセラミックの噛み合わせが合っていない場合も咬合の不調和を起こしてズキッと歯が痛むこともあります。この場合は噛み合わせの調整が必要となります。早期に対応することで軽快する場合が多いのですが、数日〜数ヶ月痛みが持続する場合もあります。
噛み合わせの不調和による歯の痛みは重篤になると日常の咀嚼が苦痛になる程に痛むようになる場合もあります。
思い当たることがあれば、早めに歯科医師にご相談下さい。
歯が痛い6つの原因
歯周病とは歯周病菌の感染によって骨が喪失していく疾患です。骨の喪失に伴って歯茎が退縮して歯の根っこが露出することがあります。歯の根っこはエナメル質に保護されていないので、象牙細管に沿って歯髄に刺激が伝わりズキッと歯が痛いと感じるがあります。
一度喪失した骨や歯肉は再生量が限られてしまいます。限られた組織が感染によって喪失することを避けるために歯周病の予防や治療を推奨しています。
知覚過敏の治療法
歯肉の退縮に伴う知覚過敏には薬剤を塗布することで疼痛が軽減する場合があります。また、レーザーによって象牙細管を塞栓する方法やレジン充填という方法もあります。
条件は限られますが、歯肉を移植することで露出した歯根を被覆する方法もございます。
歯が痛い6つの原因
外傷により強い衝撃を受けた後の歯は知覚が過敏になりやすく、ズキッと歯が痛いと感じることがあります。
歯髄の鎮静には長い時間がかかる場合もあり、数日から数ヶ月の間は注意深く経過をみることが肝要になります。このように強い衝撃を受けた歯は血流が途絶える場合もあり、歯髄が壊死する可能性もあるので、受傷から数ヶ月後にはレントゲン撮影を行なって経過を見た方が良いかもしれません。
歯が痛い6つの原因
歯に過度な負担がかかると、ヒビが入って破折することがあります。歯が破折すると、細菌が深部まで到達することが出来るようになるので歯茎が腫れることがあります。また、噛むと痛みを伴うようになります。これは歯が痛むというより、歯の周りの組織が損傷を受けて傷んでいるということになります。
神経を取った経験がある歯は破折するリスクが高く、深部に及ぶ破折が認められた場合は歯を抜く必要性が生じます。特に歯ぎしりをする方は睡眠時に歯に大きな負担がかかるので破折リスクが大きくなります。近年ではボトックスを筋に注入することで歯にかかる負担を減らす対処法も注目が集まっております。
破折した歯も抜かずに残す方法や、インプラントやブリッジでの対応が必要になります。また、親知らずを欠損部に移植する方法もあるのでご興味がある方は併せてご覧ください。
いかがでしょうか
以上が歯が痛い6つの原因でした。
稀ではありますが、実は他にも歯が痛いと感じることがあります。
これはあまり知られていない内容ですが、実際に以下のような事から歯が痛いと感じることもあるのです。
歯や歯周組織以外で問題が起きているにもかかわらず、歯が痛いと感じることを非歯原性歯痛といいます。
食いしばりや歯軋りによって筋肉や筋膜は負荷を受けます。咬合性外傷との鑑別は打診と触診が非常に有効です。まずは歯をコツコツと叩いてみましょう。
その際に歯が痛ければ歯原性疼痛ということになります。つまり前述の噛み合わせの不調和で歯が痛いという内容に合致します。
この筋・筋膜の痛みからくる非歯原性歯痛はコツコツ歯を叩いても痛みはなく、咬筋という噛む筋肉を押してみる触診という際に張りや痛みを感じます。筋・筋膜に痛みを伴う際に関連痛として歯が痛いと感じるのです。
このように筋・筋膜の痛みからくる「歯が痛い」という症状に関しては筋・筋膜を安静にする必要があり、マッサージやマウスピース、ストレスの緩和が治療の対象となります。歯が原因ではありません。
歯の痛みを司る代表的な神経を三叉神経といいます。三叉神経に問題が起こり、異常に痛みを感じてしまうことを三叉神経痛といいます。
特徴的な症状としては、レントゲン上で問題がないにも関わらずに複数本の歯が同時に痛いと感じることがあります。また、三叉神経の末梢である顔面の皮膚を触れると鋭く激しい痛みが起こる場合もあります。顔を洗った時に激しい痛みがある方は三叉神経痛の可能性があります。
帯状疱疹後神経痛の場合も同じような症状が出ます。こちらは帯状疱疹ウイルスが三叉神経に潜伏することで神経障害性疼痛を引き起こします。こちらも複数本の歯が同時に痛いという症状が出る可能性があります。
このように神経障害性疼痛による「歯が痛い」という症状には、神経の異常な活動を抑える薬を処方する場合があります。こちらも非歯原性疼痛ですので、歯の治療は必要ありません。
上顎の奥歯の一部は上顎洞と接しています。鼻腔や副鼻腔が原因で上顎洞に炎症を伴う場合は、歯が痛くなることもあります。
レントゲン上では歯に問題がなく、なおかつ上顎洞に炎症が認められる場合は鼻性上顎洞炎が疑われます。上顎洞炎はレントゲン所見で判別が容易にできますが、患者様は目の下の頬部に重い痛みを感じることで受診する方が多いように感じます。
歯性上顎洞炎であれば、神経を取った経験のある歯が再感染していることや歯髄が壊死した状態が放置されている場合が考えられます。稀ではありますが、歯周病や歯科矯正に関連して上顎洞炎が起きていることもあります。
この上顎洞炎の場合は原因が「歯」であるのか、「鼻(副鼻腔)」であるのかを的確に診断しないといけません。
歯肉癌などの口腔がんによって歯周組織が崩壊することで歯が痛いと感じることがあります。この場合は悪性腫瘍の治療が優先されます。早期発見、早期治療が大切です。口腔がんの多くは扁平上皮癌という分類になるので、粘膜がぐずぐずと爛れたような状態になることで発見されます。また、レントゲンを撮影してみると、骨が不自然に溶けている様子が見られるのが特徴です。
以上が非歯原性歯痛でした。
一言で歯が痛いと言っても多くの原因が考えられます。症状と現在の口腔内で起きている問題を的確に伝えて、患者様にご理解を頂くとともに適切な治療の提案をする必要があると感じています。歯が原因で痛くなる場合もあれば非歯源性の歯痛もあることが分かりました。
みなさまに当てはまることがあるのではないでしょうか。
本日のブログは普段の臨床を行なっていくにあたって、患者さまの何気ない言葉から我々歯科医師と患者さまの「歯が痛い」に対する目の向け方が違うことに需要を感じて投稿をしております。
歯のズキッとする痛みには様々な原因があり、決して虫歯だけではないということ。そして、それぞれに適切な対応を取ることが問題を解決する方法であるということが少しでも伝われば嬉しく思います。
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